どようのつちのひクラシック音楽

どようのつちのひ 79

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クラシック音楽に限らない話かもしれませんが、即興演奏でも無い限り、音楽というものは楽譜を元に演奏されます。作曲家が書くのは楽譜であって、それを指揮者や演奏家たちが紐解き、演奏という形として表現します。楽譜には様々な情報が記されている訳ですが、今回はその中から「音量」について。

楽譜上で音量を表す表現と言えば「p」とか「ff」と言った強弱記号が基本です。

この強弱記号の最大音や最小音をご存知でしょうか?

一般的に使われる範囲だと「ppp」~「fff」辺りですが、「ffffffffff」などと記しても別に構わなかったりします。要するに表記限界は特に無いという事です。

ただ「ffffffffff」などという表記は見かけません。

理由は幾つか考えられますが、やはり合理的理由が無いというのが一番の理由でしょうか。

f*10が必要な事態という事は、f*9が使われているという事であり、f*9が使われているという事はf*8が使われて…という事です。

その曲における最大音量を示すならf*3もあれば大体事足りるのです。ありふれた表記からただならぬ事態を読み取るのは演奏家たちの仕事であって、そんな所に大量のfを並べられてしまったら何より品が無いですよね。

そんなクラシック界隈で恐らく最も有名と思われる強弱表記を紹介しましょう。

表記が潰れかけで見づらいのですが、2段めの最後の小節に「pppppp」と表記されています。他の小節にも様々な「p」が並ぶ事から、かなり小さな音量の範囲での強弱を求めている事が伝わってきます。

ちなみにこの直後にffの音楽が開始されるので、うとうとして聴いていると叩き起こされます。

その曲がこちら。

チャイコフスキー 交響曲第6番「悲愴」第1楽章(1893)

載せた画像の最初の小節が[9:07]頃からです。

あまりfやpを大量に並べるのはみっともないと先にお話しましたが、チャイコフスキーが「pppppp」を用いたのは全作品中この曲のこの小節だけなので、この小節に対する強い意志を感じさせます。

ちなみに、この曲での最大音量は「ffff」。それも2箇所にしか登場しません。


音量の話題からは逸れるのですが、この「pppppp」が有名な理由がもうひとつ有ります。

先のスコア画像を見ていただけると分かるのですが、クラリネットのソロを引き継ぐ形でファゴットが「pppppp」を担当しているのが分かります。

ですが、この箇所をファゴットで演奏する事は今では滅多にありません。

というのもクラリネットとファゴットでは音色が違いすぎる上に、クラリネットの方が弱音が得意なため、音量の引き継ぎにも難が生じてしまいます。現在ではバスクラリネットが担当する事が殆どです。紹介した音源もバスクラですね。

これだけの強い想いが込められた箇所でなぜこんな楽器指定になったのかは諸説有りますが、決定的なものは有りません。チャイコフスキーは自作の作品に対して改訂を施す事が比較的多い作曲家だったのですが、「悲愴」の初演9日後にこの世を去っているために、この曲に関しては改訂が行われる事も無く真相は分からず仕舞いです。