どようのつちのひクラシック音楽

どようのつちのひ 7

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今回はTEDの動画より。
2009年の動画で、当時ちょっと流行った記憶があるので、見た事がある方も居るかもしれない。

ジョークを交えながらのスピーチで堅苦しさが無く気楽に視聴できる。

ただ、テーマが音楽ではなく「リーダーシップ」なので、音楽的に見た場合には少しフォローが必要かなと思う。

決してこの動画にケチを付けるつもりでは無いのだが、極端な話、演奏会には指揮者は居なくても何とかなる。指揮者の仕事は練習やリハーサルで概ね完了してしまうからだ。

曲のイメージはあらかじめ伝えるし、技術上の粗もその時に修正する。
演奏タイミングの合図はコンサートマスターが出せるし、実際に出す。

綿密な打ち合わせと練習が出来ていれば、本番演奏で指揮者の仕事と言うのは特に無い。

とはいえ、時間は有限で練習回数も限られる。
プロのオーケストラともなると曲次第だが数回の練習で演奏会なんてザラな話だ(余談だが、2日連続で同じプログラムが組まれると2日目の方が上手かったと言う事は結構ある)
予定された指揮者が急病で別の指揮者がぶっつけ本番で…という事さえ極稀だがある。それに芸術の世界、完璧なんて物は存在せず、リハーサルで上手く行けば本番は更に高みを目指そうとするのも指揮者の性分だろう。
その上で要求されるのが「リーダーシップ」だと思う。
そこからの話は動画の通りである。

動画最後のハイドンの88番のバーンスタインの「顔指揮」はクラシックオタクの間ではちょっとした語り草になっている。最低限のイメージだけ提示し、後は全て奏者の創造性に任せる。指揮の究極系の1つと言えるだろう。
ちなみにこの顔指揮はアンコールでの振る舞いで、プログラム中では一応それなりに身振りを交えている。


おまけ。
先程「リハーサルで上手く行けば本番は更に高みを目指そうとするのも指揮者の性分」と書いたが、これとはほぼ真逆のエピソードを最後に紹介しよう。

ソ連時代の大指揮者エフゲニー・ムラヴィンスキー。
歴代の名指揮者たちの中でも相当の完璧主義者で、団員に対して妥協の一切ない練習を行い、手兵レニングラードフィル(現サンクトペテルブルグフィル)を超一流のオーケストラにまで引き上げた。

そんな彼が団員と入念に練習を重ねたブルックナーの交響曲第7番。練習の甲斐あって、本番直前の最後の通し練習ではこの世のものとは思えぬ程の完成度の演奏が出来上がった。そして演奏会本番、何が起こったか?

ムラヴィンスキーは演奏会をキャンセルしてしまったのだ。「通し練習以上の演奏が本番で出来るとは到底考えられないから」

と。ムラヴィンスキーにとって、音楽とは神への捧げ物であり、通し練習の時点でそれが達成されてしまったのである。

ブルックナーも神への捧げ物として音楽を書いた作曲家だったので、両者の精神が呼応した結果なのかもしれない。演奏会を心待ちにしていたであろう聴衆にとっては堪ったものではないが。