『グリーグ ピアノ協奏曲 第2楽章』
「一番美しいと思う協奏曲の楽章は?」
かなりニッチな質問だと思うが、一番好きな協奏曲は決められない中、質問をここまで限定すれば即答できるのがこの曲のこの楽章である。6~7分程度の楽章。
冒頭の弱音器を付けた弦楽器群とそれに寄り添う管楽器とピアノのソロは、雲海の中を飛ぶ野鳥の様にも夜霧からぼんやりと見える街灯や星空の様にも見える。ただただ幻想的で美しい光景。
この曲の1楽章冒頭は殆どの方が聴いた事が有ると思う。また、リストにこの曲を見せた際にはリストは初見で最後まで弾ききった後3楽章を絶賛し、周囲の人に曲の良さをレクチャーし始めたと言う。
ここでは長い曲を極力取り上げない方針なので、今回取り上げるのは2楽章だけだが、気に入ったら是非とも全曲聴いて欲しい。
この曲、曲全体としては構成からシューマンのピアノ協奏曲がよく引き合いに出されるが(調性や曲の流れがシューマンの物と同じで、シューマン夫人がピアノソロを務めた演奏会を実際に聴いており、グリーグ本人も影響を受けたと語っている)この楽章のロマンティックさはラフマニノフと比較するのが面白いと思う。
北欧ノルウェーの作曲家グリーグとロシア(後にアメリカへ渡る)の作曲家ラフマニノフ。どちらも北国の作曲家で音楽が漂わせる温度はどこか似たものがある。大きく異るのは、ラフマニノフが「人と人」や「人の心」に比重を置いてロマン描写をしている事に対し、グリーグは「風景の一部」としてそれを描いている点だと思う。自分にはラフマニノフの音楽からは恋人が見えるが、グリーグからは恋人達が眺めている風景が見える。
どちらが優れているとか優劣の問題では決して無いが、心を穏やかにして聴けるのは個人的にはグリーグの方である。
エドヴァルド・グリーグ(1843-1907)は北欧の作曲家、スウェーデン統治下のノルウェーの生まれ。ピアニストとしても非常に有名で、ヨーロッパ各地でリサイタルなども行っている。作曲家としてはペールギュントの「朝」などが他に有名だろうか。国民楽派の作曲家と言われ、自国民族音楽に着想を得た音楽を数多く作曲した。
また、寝る時は子豚のぬいぐるみを離さず、演奏会前は緊張しないようにと蛙の置物をポケットに忍ばせて握っていたそうである。体格も150cm程度と非常に小柄であった。
この辺りも身長2mのピアノ界の巨人ラフマニノフと比較すると面白いのかもしれない。目に映る風景も全く違う物だっただろう。
おまけ。
『ラフマニノフ 交響曲 第2番 第3楽章』
協奏曲ではありませんが、今日の曲との比較だとこの曲の方が良いかなと。