どようのつちのひクラシック音楽

どようのつちのひ 11

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「脱衣の芸術?」

ベートーヴェン 『ピアノ協奏曲 第4番』 第3楽章

またしても大曲からの抜粋。
うん、「また」なんだ。済まない。
しかも以前、ファーストチョイスにはあまり薦めないと言ったベートーヴェンから。今回は個人的に大好きな曲という事でここはひとつ…。


ベートーヴェンはピアノ協奏曲を5曲書き残している。
最も有名なのは5番だと思う。『皇帝』の別名を持つこの曲はその名前が示す通り非常に華やかな曲だ。それと比べると4番は派手さは無く、どこか素朴で清涼感の有る曲である。

今回は曲の紹介はこれだけにして、この曲の個人的な最大の聴きどころを語ろうと思う。

「カタルシス」という言葉をご存知だろうか。
元々は哲学用語で「精神的抑圧からの開放に伴う精神の浄化」の様な意味がある。語源に「排泄」の意が有る、と言う方が手っ取り早く伝わるかもしれない。一般で使われる際はもう少しくだけて「何かからの開放感」程度の意味合いで使われる事が多い。
ジグソーパズルの完成、スポーツ観戦での逆転勝利、推理小説の解決の糸口が見えた瞬間など現実でもカタルシスを覚える瞬間は多い。いわゆるアハ体験もそうだろう。

音楽にもカタルシスを覚える曲は多い。苦悩から喜びへと移り変わるサクセスストーリーはクラシック音楽の王道パターンだ。ただ、それを楽章単位で感じる曲と言うのは案外少ないのではないかと思う。その曲の1つが今回の曲である。

まずは冒頭20秒[26:10-26:30]を聴いて欲しい。
オーケストラが主題を奏でた後、その呼びかけに応える様にピアノが同じ主題に少し装飾を付けて奏でる。この冒頭の主題が一番良く出てくるのでこのメロディーだけは覚えておいて欲しい。
ちなみに、メロディーの掛け合いはこの楽章全体を通じて行われる。

最初にオーケストラがメロディーを提示してからそれをピアノが演奏するので、初めてでも比較的聴きやすいと思う。この掛け合いは良く聴くとオケとピアノとでは微妙に音やニュアンスが違う。この「会話」を楽しむのもこの曲のポイントの1つだろう。

さて、曲はその後様々な変化を見せるが、一気に終盤[35:45]まで話を飛ばそう。曲が最大の盛り上がりを見せる部分だ。

曲が盛り上がる際というのは、メロディーは最初に提示された時よりも装飾が増えていたり、短調だったのが長調になっていたり、音量が増したりするなどして派手になる要素を詰め込んでいくのだが、この曲は少し違う。確かに音量は最大級の盛り上がりを見せるのだが、メロディーの方はどういう事か冒頭の提示よりもシンプルになってしまっている。これが個人的最大の聴きどころだ。

この最後の最後で装飾を全て脱ぎ去った音楽が朗々と鳴り響く快感、まさにカタルシスである。しかも、この種の「脱ぎ去る」カタルシスはクラシック音楽の中でもかなり珍しい。ぱっと考えて思いつく曲はこの曲だけだったりする(探せば他にも必ず有ると思います)

解釈は色々だと思うが、個人的にはこの「裸の主題」の裏で鳴っている低音楽器の蠢きが装飾の残骸の様に聴こえて面白い。ちなみに[35:08]からのオーケストラのメロディーは「裸の主題」に近い。しかしまだ少し装飾が有ったり、緩やかなテンポで確信感からは程遠いものとなっている。