どようのつちのひクラシック音楽

どようのつちのひ 12

この記事は約3分で読めます。

「ポップスオーケストラの魅力」

アンダーソン 『そりすべり』(1948)

クリスマスイブという事で定番曲から。
きっと何かしらのBGMで聴いた事が有ると思う。
名前の通り冬のそり滑りがテーマの曲。今となってはクリスマスの定番音楽として知られているが、クリスマス音楽として作曲された訳では無いらしい。


ルロイ・アンダーソン(1908-1975)はアメリカの作曲家。大学で音楽を学び博士号まで取得した後、大学で教鞭を取っていたが、その傍ら行っていたのはバンド音楽の演奏や教会のオルガン演奏で、クラシック音楽の作曲からは離れた所で活動していた。ボストン交響楽団から依頼された合唱音楽の編曲の技量が当時の指揮者の目に留まったのが作曲家としての転機で、作曲された曲の殆どがボストン・ポップス・オーケストラで初演されている。
ちなみに、ボストン・ポップスは、ボストン交響楽団が毎年夏のオフシーズン期間を利用してポップス曲の演奏の為に特別に編成されたオーケストラ。奏者の殆どがアメリカの名門、ボストン交響楽団の団員で構成されており、ポップスオーケストラとしては世界最高峰の実力を誇る。


アンダーソン 『タイプライター』(1950)

この曲も有名だろう。
タイプライター「奏者」が「ソリスト」という異色の曲。
当時は現役で活躍していたタイプライターを音楽に乗せてしまうというアイデアなど、アンダーソンの自由な発想は戦後冗談音楽のパイオニアとも。


アンダーソン 『シンコペイテッド・クロック』(1946)

この曲も有名だと思う。こう並べてみると、アンダーソンは18、19世紀の作曲家の音楽より余程知られているのかもしれない。
シンコペイテッド(syncopated)とは直訳すると「切り分けされた」という意味。ここでは音楽用語のシンコペーションの意味だろう。
シンコペーションとは本来強拍である位置に強い音が来ず、弱拍や拍に乗っていない場所に強い音が来るリズムの事を言う。言葉で表すと妙に難しいが、曲中で最初は淡々と時を刻み続けるウッドブロックが時折妙なリズムになるあの瞬間がシンコペーションである。拍が来そうな所に来ないと言う意外性が面白さや緊張感を産む。


ちなみに、アンダーソンが生まれた頃にアメリカで流行していた「ラグタイム」もシンコペーションの塊のような音楽だ。

ジョプリン 『メイプル・リーフ・ラグ』(1899)

この曲は有名だろう。
シンコペーションの意外性を随所に散りばめ、リズムが持つ面白さを全面に押し出した音楽だ。


クラシックがルーツとは言え、ラグタイムまで行ってしまうとクラシック音楽からは離れてしまうので、最後にクラシック音楽からシンコペーションの「緊張感」を用いた曲の代表格をひとつ。

モーツァルト 『交響曲第25番』 第1楽章(1773)

この曲も有名なのでは無いだろうか。
冒頭からシンコペーションで始まる悲劇的な曲。
シンコペーションの連続で緊張を与え続ける展開かと思いきや、[0.:45]からは普通のリズムを用いて安堵感を与える。しばらくするとまた冒頭のシンコペーションへと戻っていくこの緩急が素晴らしい。この後も似たようなメロディーが何度も出て来るが、ただの繰り返しかと思いきや全く違う展開を見せたりするこの楽章そのものが意外性と緊張感に満ちている。このコンセプトにシンコペーションは見事にマッチしていると言えるだろう。

モーツァルトに関しては今後コラムにする事もきっと有ると思うので、今回は曲の紹介だけ。