今回は試験的にですます調。です。
写真は全てWikipediaからのものです。
「世界で一番贅沢なホール」
世界で一番贅沢なホールってどんなホールでしょう。
豪華な装飾や調度品に包まれたホール?
それとも世界最高峰の楽団が本拠地にしているホール?
議論は色々有ると思いますが、こんなホールはいかがでしょうか。

これは正面からの写真。
周囲は公園で緑に包まれています。静かな所で確かに立地は良さそう。
でも建物自体はそこまで豪華である様には見えません。

次は内部の写真。
沢山の人で凄い賑わいです。人気は有りそうですね。
でも内装は…柱も灯りもシンプルだし、座席は横は両脇まで一直線で座りにくそう。
では、ここの何が贅沢なのか。
実はこのホール、1年に十数日しか演奏会が行われないのです。
このホールの名前は「バイロイト祝祭劇場」
その名の通りドイツのバイロイトに有ります。
オーケストラ楽団のオフシーズンである7-8月頃に、世界中から奏者を集めたバイロイト祝祭管弦楽団を編成し年に一度バイロイト音楽祭を開催、このホールが演奏会として使用されるのはその期間だけです。
それ以外の期間も内覧ツアーなどは行っているものの、演奏で使われる事は音楽祭以外はありません。
更にこのホールは演奏曲も限られています。
ここはリヒャルト・ワーグナー(1813-1883)が自身の作品の演奏のためだけに作ったホールで、上演される演目もワーグナーの作品のみ。定礎式でワーグナー自身が指揮したベートーヴェンの第九だけが例外的に認められています。
演奏効果に特化したホールで、椅子は木製で黒塗り。木製なのは椅子自身も反響板として作用するためで、黒塗りなのは照明を落とした際の舞台への没入感を高めるためです。内装も当時のホールとしては相当簡素な部類です。
一番の特徴は「神秘の奈落」と呼ばれる特殊なオーケストラピットでしょう。
オーケストラピットとは歌劇やオペラ、バレエなどの舞台演目を行う際に用いる奈落の事で、一般的には舞台手前を一段落とした様な形をしています。
一般的なピットは客席から奏者が半身くらい見えたりする事も多いのですが、このホールは客席からはピットが全く見えない形に板で覆ってしまい、更にピットのスペースを舞台の下側にまで潜り込ませています。
これも劇への没入感を高めるための仕掛けで、ワーグナーが自身の作品の演奏効果を如何に上げるかという事に執心したかが分かります。
ただ、この客席が見えない性質上、ピット内の奏者にとっては演奏しにくいとの不満もあるとか。

しかし、当時の楽壇の中心人物だったとは言え、一介の音楽家に過ぎなかったワーグナーがどうしてこの様なホールを建設できたのでしょうか。
その理由は彼のパトロンにあります。
パトロンの名はルートヴィヒ2世、当時のバイエルン国王です。
彼はワーグナーに心酔しきっており、 このホール建設に限らず演奏会費用の援助など様々な形でワーグナーを援助しました。
ところで、このルートヴィヒ2世という名前、音楽以外で聞き覚えの有る方も居るのではないでしょうか。ノイシュバンシュタイン城を建設したのも彼です。
このホールが建設できた理由がそれだけでも何となく分かりますよね。
余談ですが、ワーグナーは演奏効果の為にホールだけでなく、新しい音色を求めて楽器も作っています。そのものズバリな「ワーグナーチューバ」という名前なのですが、チューバという名前でありながら演奏するのは大抵ホルン奏者です。演奏にはこれをB管F管の2種2本、計4本並べて用いるのが基本で、特殊楽器なんて多くても精々2本程度なのが一般的なクラシック音楽に於いて、
彼の贅沢さはこうした面からも垣間見えます。
特殊な楽器なだけ有って演奏機会は少ないのですが、ワーグナー以外では彼を崇拝していたブルックナーが同様の規模でこの楽器を使用しています。
ちなみに、バイロイト音楽祭はその希少さからチケットは抽選で5年待ちはざらで(申し込み年数もカウントしているらしい)、ウィーンフィルのニューイヤーコンサートなどと同等、あるいはそれ以上に入手困難なチケットとなっています。
私はワグネリアン(ワーグナー愛好者)では無いのですが、それでも一生に一度は行ってみたいと思う音楽祭です。