「チェンバロ協奏曲の元祖」
バッハ 「ブランデンブルク協奏曲」 第5番 第1楽章(1719頃)
前回に引き続き、ブランデンブルク協奏曲からの紹介です。
前回の説明の通り、ブランデンブルク協奏曲は合奏協奏曲の曲集なのですが、この曲だけ少し毛色が違います。入れ替わり立ち替わりだったはずの合奏協奏曲のソリストですが、この曲は明らかにチェンバロに比重が寄っています。1楽章の後半など、殆どチェンバロの独壇場と言った感じで、最終的には伴奏すら無くなります。こういった「カデンツァ」と呼ばれるソリストの独奏部は独奏協奏曲では一般的なものですが、合奏協奏曲が主流だったバロック時代では異色なものでした。この曲が後にバッハ自身が作曲するチェンバロ協奏曲の先駆けとも言われています。
今ではバッハのチェンバロ協奏曲はピアノでも演奏される機会も有るので、ピアノ協奏曲の先駆けと拡大解釈する事も可能かもしれません。ちなみにピアノは当時は発明の途上段階で、本格的に用いられる様になるのはバッハの時代から数十年後のモーツァルトの時代に入ってからの事です。
また、この曲を作曲した頃にバッハが発注したチェンバロの受取をしたという記録が残っており、そのチェンバロのお披露目として書かれた曲ではないかとも。バッハ自身、チェンバロやオルガンの名手でした。
余談ですが、そういった鍵盤楽器の鍛錬の為に名手バッハが後進のために用意したのが「平均律クラヴィーア曲集」で、音楽に於ける旧約聖書とまで呼ばれるに至っています。ちなみに新約聖書はベートーヴェンのピアノソナタ集です。
前回の第1番と比較すると、遊びは少なく比較的真面目な曲調ですが、それだけに後半のチェンバロ独奏の自由さが際立ちます。前半部分の独奏バイオリンとフルートのメロディーの掛け合いも中々楽しいのですが、後半のチェンバロを聴くとちょっとした前座に聴こえてしまいます。
ちなみに、冒頭と最後のメロディーは全く同じなのですが、チェンバロ独奏の後に聴くこのメロディーは不思議とチェンバロが目立って耳に入ってきます。最初から聴き直してみると「チェンバロって冒頭からこんな事してたのか」という新鮮さを味わえる事でしょう。
今回も別音源の映像を紹介します。前回紹介した映像と同じ団体です。1つ目の動画は現代のピッチ、2つ目がバロックピッチなのも前回同様。
下2つの動画の方が緩急が効いて、装飾音も多く洒落た印象でしょうか。ただ個人的には冒頭の音源のシンプルな勢いが好みだったので、そちらを最初に紹介しました。あとチェンバロの低音部の太い響きが好き。独奏部終盤に現れる最低音のDとか何度でも聴きたくなります。
ちなみにバロック時代の音楽の装飾音は奏者が自由に付けていました。勿論、ある程度の決まり毎はありますが。こういう所がバロック演奏のセンスの見せ所のひとつでしょう。
今まで言っていなかった様な気がしますが、私は同じ曲なら軽快なテンポの演奏の方が概ね好みです。あとは緩急も余りつけず、シンプルに聴かせどころを聴かせるようなタイプの演奏とかも。所謂「骨太」な演奏って奴でしょうか。
今後紹介する曲や音源もそういった物が多いと思われるので、一応ご留意下さい。歳と共に少しは落ち着いたような気はするのですけどね。昔は爆音系や快速系とか大好きでした。
次回は久々のCD紹介シリーズの予定です。
CD回では好き勝手書きますが、もしよろしければお付き合いください。