久々の「想い出のCD」の話。
高校の修学旅行は九州でした。
平和公園やらグラバー園やらの名所に強制的に連れられて行くスケジュールに抑圧され続けた僕たちは、街中での自由行動で大いにその鬱憤を晴らす事に。と言っても暴れまわったとかそういう話では無く、街で見つけた大型CD店のクラシックコーナーをクラシックオタク界(?)に足を踏み入れかけていた連中達と共にあれこれ物色するのでした。確か博多のタワーレコードだったはず。
ポップ系CDしか買わない方にはピンと来ないかもしれませんが、クラシックのCDはどの店にも等しく置いてあるようなものでは無く、店員の趣味やら在庫の捌け具合などで店によって品揃えはかなり異なりました。それもネット流通の発展で今は昔という話ですが、中古CD店では今でもそういった楽しみを味わう事が出来ます。

その自由行動中に立ち寄ったCDショップで買った1枚。丁度探していたものでした。宿に帰った後、所持していたCDウォークマンで何度も仲間と聴いた想い出。その数ヶ月後、地元のショップに同じCDが入荷されていたのを見かけて複雑な気分になったのもよく覚えています。
内容はカラヤンがベルリンフィルを率いて行ったモスクワ公演(全3公演)の2日目のプログラム。
バッハ:ブランデンブルグ協奏曲第1番
ショスタコーヴィチ:交響曲第10番
これまで2回に渡って取り上げた「ブランデンブルグ協奏曲」との出会いが実はこのCDです。それまでバッハは楽器のレッスンで何となく練習した程度でいまいち良さが分かっていなかったのですが、この音源は違いました。
「堅苦しさのないバッハ」という曲自体の新鮮さに加えて、室内楽曲とは思わせない程の豊かな音量での演奏というのも初聴には良かったのかもしれません。
最高峰ベルリンフィルの奏者達がアンサンブルはしっかり維持しつつも、各奏者が自由に音を鳴らしていく豪快さがとても印象深い楽しい演奏です。この音源がなかったらバッハに向き合う事も無かったかもしれません。
そしてメインの10番。この音源目当てでこのCDを探していました。
10番はカラヤンは唯一取り上げたショスタコーヴィチ作品です。意外かもしれませんが、最も有名であろう5番すら彼は一度も振っていません。
その10番は音源が4つ残されています。
そのうち3つがベルリンフィル。そしてその中で唯一のライブ音源がこれです。1、3楽章の陰鬱な表現や静寂の表現も素晴らしいのですが、やはり2、4楽章の超絶技巧の圧倒的精度が目立ちます。2楽章全体のドライブ感、4楽章のクライマックスの音の大洪水、そしてそれを突き破って現れるE-durの力強さ。どれをとってもベルリンフィルの超一級品。この静寂から大音響のダイナミクスレンジはベルリンフィルならではと言って良いでしょう。これをライブでやってのけるカラヤン&ベルリンフィルの凄まじさよ。
当時ソ連には、大半のショスタコーヴィチ作品を初演したムラヴィンスキー率いるレニングラードフィルというこれまた超人集団も存在しましたが、ショスタコーヴィチと特に縁もゆかりもない指揮者とオーケストラがこれ程の完成度の演奏をソ連に持ち込んできたと言う事がひとつ重要な点なのではないでしょうか。
メロディヤ(当時の国営レーベル)音源にしては比較的良好な録音状態なのもポイント。
ちなみに、他2枚のベルリンフィルとのスタジオ録音も圧倒的完成度の素晴らしい音源なのですが、非常に良い演奏であるもののライブに見られたある種の狂気は影を潜めています。完成度を追求する結果なのかもしれません。この曲に限らずカラヤンはその傾向が有るようで、しばしば「スタジオ録音とライブでは別人」とも言われます。スタジオ録音のカラヤンばかり聴いている方がライブ音源を聴くと度肝を抜かれるかもしれません。
恐らくこういった話はカラヤンに限った事では無いのでしょうが。
また、この演奏会にはショスタコーヴィチ本人も臨席しており、CDを開くとカラヤンと作曲家が並んだ写真を見る事が出来ます。