どようのつちのひクラシック音楽

どようのつちのひ 52

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今日は曲紹介というより楽譜紹介。

ブルックナー 交響曲第9番より第2楽章(1894、終楽章未完)

管楽器のロングトーンと弦のピチカートが織りなす幻想的な雰囲気をぶち壊すように突如始まる暴力的な弦楽器群の総奏による同音連打がとにかく強烈で格好いい曲。曲の形式としても最後に前半部を繰り返すA-B-A形式で、分かりやすく聴きやすい楽章です。

ブルックナー最後の交響曲として全ての楽章が素晴らしく、聴きどころもたっぷりで、終楽章が未完で終楽章補完版が幾つか存在する為にその議論も含めネタに事欠かない曲なのですが、今回のネタは曲のごく一部。

2楽章の冒頭、弦楽器のピチカートの裏で管楽器がずっとロングトーンをしている事に気づいたでしょうか。良く聴き直して下さい。ちょっと長いと思いませんか?

こちらがその楽譜。

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3段目の後ろの「A」と印字されている場所が弦楽器の同音連打の開始場所です。そう、めちゃくちゃ長いんです。

先の動画の演奏だと35秒吹いてます。この演奏、テンポが早い方なのでこれでも短い方です。遅いテンポだと50秒くらいのロングトーンを要求されます。ひどい。しかも長いだけじゃなく、後半からはクレッシェンドのおまけつき。すごくひどい。

他にもっと長いロングトーンを要求される曲が存在するかもしれませんが、自分が知っている曲の中ではこれが一番長いです。

ちなみにこれはオーボエの楽譜。
オーボエは管楽器の中では比較的息の効率が良く、ロングトーンには適任な楽器だったりします。

それでもちょっとこの長さは…。

クラリネットもほぼ同じ楽譜ですが、途中で音が切れて吹き直します。また、トランペットは途中から参加しています。これも結構な長さで、金管楽器という事を考慮したらこちらの方がひょっとするとキツいのかもしれません。


実演の際に取られる手段は幾つかあります

1.気合
半分冗談ですが、半分本当です。
と言っても35秒程度なら割となんとかなります。50秒くらいになってくると体格差などで物理限界が出始めてくるのでこの場合は循環呼吸などを用いたりします。幸いオーボエは循環呼吸がやりやすい楽器です。
循環呼吸については以前コラムで取り上げたので、そちらもどうぞ。

どようのつちのひ 38
息を無限に吐き続ける方法 管楽器奏者にとって息は有限のリソースです。 演奏中、どこかキリの良い場所で必ず息を吸わねばなりません。 その呼吸がフレーズ感を生んだりと良い面も有りますが、長いフレーズでどうしても息が続かない事を経験した人も...

2.適当にサボる
後半からトランペットが加入するのでそこでこそっと息を吸うパターン。
音源を聴き漁るとたまにバレバレな奴があります。
わざとなのか息切れしたのか良くわからないのが玉に瑕。

3.分担
この曲にオーボエ奏者は3人居るのですが、これを吹いているのは1番だけなので、息が切れる前に2番にバトンタッチする事が可能です。ただこのパターンを私は聞いた事がありません。音源だけでは判別が難しい上に、映像でも大抵弦楽器のピチカートがアップされてしまうからです。


ロングトーンという分かりやすい例だったので今回この曲を取り上げましたが、ロングトーン以外でも長いフレーズだったりフレーズ間に全く休符が無く、息を吸うのが困難な曲も結構あります。そういう際の対策は人によって様々で、中々面白かったりします。