マーラー 交響曲第1番「巨人」より第4楽章(1896)[36:21~]
このコラムではあまりに長い曲は極力取り上げない方針なのですが、今回紹介する曲は4楽章だけでも20分程あります。ただ、マーラーの交響曲の中ではこれでも短い方だったり。
今回は曲の内容と言うより、ビジュアルのお話です。
クラシック音楽という硬派(?)な分野にビジュアルもへったくれも有るのかと思うかもしれませんが、マーラーの交響曲は一味違います。
一番の特徴は4楽章終盤のホルン。
曲が最大の盛り上がりを見せる所で(動画内[55:13~]頃)奏者が全員立ち上がります。オーケストラが勝手にやっている訳ではありません。楽譜の指定にそう書いて有るのです。
他にもベルアップの多用が目立ちます。
ホルン、クラリネット、オーボエ辺りは何度も楽器を上げて演奏させられています。指揮が見づらいから見た目以上に案外大変なのだとか。
2セット有るティンパニが全く同じ音のロールを小節毎に分担して叩いたりしているのも個人的には好きです。これもちゃんと楽譜の指示ですよ。
演奏会場でのインパクトもかなり意識した作曲家です。なんと言っても
交響曲第8番「千人の交響曲」なんて曲を作るくらいですから。 本業が指揮者だったからこそ成せる業なのかもしれません。
現在よく聞かれている4楽章編成の交響曲版は1896年に完成したのですが、この曲には前身となるものが幾つか存在します。マーラーが指揮者の身で、自身の曲も当然マーラーが指揮したので、演奏毎に頻繁に楽譜が書き換えられました。
まず、1889年にマーラー自身の指揮で初演された版。
ブダペストでの演奏だったので「ブダペスト稿」と呼ばれています。当初は交響曲ではなく交響詩として作曲されました。5楽章編成で、各楽章に副題が付いているのですが、曲自体に「巨人」の名はありません。
また、この原稿は現在失われています。
次の版は1893年に演奏された「ハンブルク稿」
ここで作曲家が「交響曲形式による音詩『巨人』」と名付けます。形式は5楽章のままで、2楽章には「花の章」という副題が付けられています。こちらは自筆譜も残されています。その後、幾つか改訂を施した「ヴァイマル稿」を経て現在の形式に至ります。
既に説明した通り、現在の版では交響曲となりました。
この版で、2楽章に存在していた「花の章」は削除され4楽章形式となります。
またその際、曲名や楽章についていた副題は全て取り除かれました。なので現在演奏されている曲名に「巨人」を付けるのは正確では無かったりします。作曲家自身「この副題のせいで聴衆が曲へのイメージを誤解している」というコメントも残しています。
ただし、作曲家が過去の版で使った名称なので「運命」の様にでっちあげという訳でもありません。通称になるような何かが有った方が曲を認識しやすいので聴く側としては有った方が良いのですが、今の形式ではマーラーは副題を与えていないと言う事は念頭に置いておくべきでしょう。
いつもの余談。
今回紹介した動画の演奏団体は「ルツェルン祝祭管弦楽団」と言います。毎年夏に行われるルツェルン音楽祭の為に特別編成されるオーケストラです。「祝祭」と付いているオケは特別編成のオケが多い気がしますね。
このオーケストラ、メンバーにベルリンフィルやウィーンフィルの奏者が多数居る上に、普段はソロ活動をしているレベルのトッププロまで参加している超超オールスターオケだったりします。豪華さなら断トツで世界一のオーケストラです。勿論、実力も最高峰ですよ。