今回は動画たくさんですが、聴いて欲しいのは冒頭だけです。
冒頭で気に入ったら最後まで聴いてみてください。
「協奏曲のお膳立て」
音楽的である事は大前提ですが、元来協奏曲と言うのはソリストの技量を見せる事に重点が置かれていました。勿論今でもその原則は変わっていないのですが、時代と共にその傾向に少し変化が有ります。
ソリストの為の曲と言う事で、モーツァルトやベートーヴェンの時代の協奏曲にはオーケストラによる前奏で「お膳立て」をする事が殆どでした。そうして場が暖まってきたら満を持してソリストの演奏が登場してくる訳です。ソリストが演奏し始めたらオーケストラは基本的に目立たない伴奏役に徹します。主役はソリストですから。
1曲具体例を挙げましょう。
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番(1803)
ピアノが登場するのに3分程の前奏。オーケストラだけで相当盛り上がっちゃう曲です。オケが演奏した旋律をピアノが追従して演奏します。モーツァルトのピアノ協奏曲も大体こんな流れです。
この慣例をひっくり返したのは他ならぬベートーヴェンでした。
ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番(1806)
※演奏開始は1分10秒頃から
冒頭からピアノが静かに弾き始める意表をつく作品。
この後の5番「皇帝」もオーケストラの伴奏付きですが冒頭から弾きます。
この辺りから伴奏役に徹していたオーケストラがソリストと有機的に絡み合う音楽へと発展して行きます。
そうなると伴奏役の長いお膳立てと言うのはあまり必要が無くなって来て、最初からオーケストラとソリストが一体となって音楽を作り上げていく傾向が強くなってきます。その傾向はベートーヴェンより少し後のロマン派の時代でよく見られるようになります。
メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲(1844)
ラフマニノフ ピアノ協奏曲第3番(1909)
※演奏開始は20秒頃から
どちらも似た雰囲気のオーケストラの伴奏から直ぐにソリストが旋律を歌い始め、その後オーケストラが同じ旋律を演奏します。
ソリストが先に旋律を提示した方がソリストが求める音楽にオーケストラも追従しやすいので、こちらの方がソリストの為にもなり結果音楽的になっている気もします。
ただ、オーケストラが演奏した後にソロが追従していた旧来のパターンにもオーケストラが先に旋律を提示する事でこの後どんなソロが来るのかを予め聴衆が把握出来るという利点が有ります。初めて聴く曲だとこう言う慣例は地味に助かりますよね。ソリストへのお膳立てにもなっている訳ですから一石二鳥。
最後に極端な例をひとつ。
チャイコフスキー ピアノ協奏曲第1番(1875)
ソリストに冒頭から伴奏をさせるパターン。
かなり珍しい例ですが、その分印象的でもあります。