どようのつちのひクラシック音楽

どようのつちのひ 65

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ビゼー 「アルルの女」第2組曲より「ファランドール」(1879)

忘れた頃にやって来た「どこかで聴いた事のある曲シリーズ」その2。

(その1)

どようのつちのひ 26
どこかで聴いた事のある曲シリーズ。 シリーズと言いつつ次回が有るのか謎なのは毎度の事。 ワーグナー  楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲(1867) きっと何処かで聴いた事の有る曲(アルトバイエ...

「アルルの女」のオリジナルはフランスの小説家により書かれた小説です。
それを題材に戯曲化し、その戯曲に伴う付随音楽を手掛けたのがビゼーでした。

全27曲からなる付随音楽を発表したのが1872年。初演時の評判はイマイチだった様ですが作曲技術は高く評価され、作曲家としての地位を盤石のものとしていきます。しかし、そのわずか3年後にビゼーは病のため36歳という若さでこの世を去ってしまいました。

組曲版は付随音楽から曲を選び再編したものです。
第1組曲と第2組曲が存在し、それぞれ4曲構成となっています。

ちなみに、今回紹介する第2組曲が発表されたのは1879年でした。
一方で、ビゼーが亡くなったのは1875年と矛盾が生じます。
一体どういう事なのでしょうか。

実はこの組曲はビゼーの手によるものでは無いのです。

第1組曲は生前にビゼー自身が手がけているのですが、第2組曲はビゼーの死後、親友だったギローが手がけました。音楽の素材はビゼーの物(「アルルの女」以外からも転用が有るのですが、あくまで全てビゼーの旋律)だけを用いているので、ギローの名が出て来る事はあまり有りません。


「ファランドール」は第2組曲の終曲を飾る曲です。
冒頭の勇ましいメロディーは第1組曲の冒頭でも流れます。最後の最後に原点回帰してくる様な曲構成は単純ながらもはっとさせられます。しかも同じ旋律ながら違う調で演奏されるため、原点回帰しておきながら別の予感を感じさせるのがニクい所。

その後、太鼓のリズムに乗ってフルートなどの木管による軽快なメロディーが現れます。ファランドールとはプロヴァンス地方の舞曲の名称なのですが、この軽快な旋律がファランドールの主要部分となります。

このファランドールのメロディーは何度も繰り返されて盛り上がって行きます。しかし、そんな盛り上がりに水を差すかの様に冒頭のメロディーが割って入ったかと思うと、ファランドールのメロディーまで釣られて短調に。その調子で冒頭のメロディーとファランドールは短調を維持したまま交互に掛け合い、最終的にごった返しの音の洪水となって爆発します。

その先に現れるのは元の明るいファランドールのメロディー。しかも冒頭のメロディーが並走しているのです。また、先程ファランドールが引っ張られて短調になっていたのとは対照的に、ここでの冒頭の旋律はファランドールに引っ張られて長調になっています。

ここに辿り着くまでに見せた長短の入れ替えは巧妙な仕掛けで、短調と長調だった旋律を違和感なく融合させて見せたギローの手腕がこの曲最大の聴きどころです。

3分程度の短い曲なので、是非何度か聴いて旋律の長短の巧妙な切り替えを確認してみてください。


最後に「アルルの女」のあらすじを紹介しておきましょう。

アルルとはフランス南部の地名で、その地で見た女性に男が一目惚れをしてしまいます。しかもこの男には許嫁が居るものだからさあ大変。家族や許嫁が説得しますが、完全にアルルの女に惚れ込んでしまった男は憔悴してしまいます。

その状況を見かねた家族と許嫁は最終的にアルルの女との結婚を認めるのですが、その献身ぶりに男は心を打たれて正気に戻ります。気づくのちょっと遅くないですかね。

なんとも身勝手な雰囲気漂う男ですが、めでたく許嫁との結婚式に望みます。

そして、その宴の席で耳にしたのがアルルの女と駆け落ちすると言う男の話。

その話で嫉妬に狂ってしまった男はファランドールが鳴り響く宴の席を飛び出し、投身自殺をして物語は幕を閉じます。

…身勝手過ぎる男はともかく、残された許嫁たちが不憫でなりません。